彼方から聞こえる

夕霞堂隱士元夏迪

就活だの婚活だの番組を卒業だの卒婚だの生活者だの表現者だの人間力だの挨拶力だのクルクルパーに附き合つてゐると、さらでだにクルクルパーが益々本物になつてしまふから、就寢前の數分『文章軌範』を開けて耳を洗ふ。「ごきげんやう!」宜敷何が出るかなの一時、昨夜は枕頭に諸葛武侯「前出師表」。忠恕の言葉と控へ目な修辭に運ばれて、支那中古の偉人の心事が、寢入り端の平成武州の凡夫の胸に染み込んでくる。臣不勝受恩感激。今當遠離。臨表涕泣。不知所云。bu4 zhi1 suo3 yun2と最後の四文字を讀んだところで、縹渺たる餘韻の彼方に去る武侯を見送り、森とした心持ちで眠りに落ちたことである。

平成二十一年七月二十八日一筆箋
平成二十二年五月五日修訂上網
caelius@csc.jp

夕霞堂文集/夕霞堂寫眞帖
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