彼岸から

夕霞堂隱士元夏迪

起床後、心地よい風に吹かれながら床[ゆか]に轉がり旨寢を愉しんでゐたら、案の定夢を結んだ。

無人の道場で久振りに的前に立つ。射(土朶)[あづち]は程よく濕り氣を帶びてゐる。弓構から打起に移る頃に人がやつて來て、誰何を受ける。お前は誰か。こゝで何をしてゐるか。

聞けば道場使用料に加へて、地連會費を納める必要があるといふ。すると、こゝは第三地連ですか、いや、第三はなくなつたと聞いてゐるな、山○さんが會長を務める地連ですかと訊ねる。人々はなぜ山○先生を知つてゐるかと訝しむ。

「山○さんや福原先生、それに梅○御夫妻の厄介になつてゐた者です」

さう告げると人々は得心し、今は泉下の梅○夫妻に纏はる懷舊談をひとしきり繰り廣げる。中には不佞を想ひ出す人も出てくる。畢竟こゝは第三地連ぢやないな、武州系かなと思ひつゝ、放つた一射は的中した。

目が醒めた。彼岸の入りだつた。

平成十九年九月二十二日一筆箋
同日修訂上網
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夕霞堂文集/夕霞堂寫眞帖
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