終點聚落同好會募集廣告

夕霞堂隱士元夏迪

世の中には「終點同好會」とか「行き止まり研究會」、「山奧愛好會」のやうな類のものはないのであらうか。ふと思ひ立つて、網上で檢索をしてみたところ、どうやら見當たらないやうです。

メイルマガジンやメイリングリストを網羅したサイトに當たつても駄目。「田舎暮らし」と「祕湯情報」といつた、定番モノしかない。あとは「鐵道同好會」。終點驛にこだはる人もゐるのですね。

日原通ひでお判りかも知れませんが、不佞は山懷に懷かれた行き止まりの聚落に憧れます。移住したいとまでは思はぬにせよ、そんな地點に思ひを馳せるのが好きなのです。

日原の他にも、これまで終點聚落を幾つか訪ねてゐます。會津は檜枝岐(ひのえまた)村、日光男體山の裏手に當たる川俣温泉郷、上州尻燒(しりやき)温泉、甲州増富(ますとみ)温泉、日向の高千穗。すぐに思ひつくまゝ竝べてみてもこれだけありますから、記憶を浚へば、もつともつと出てくるに相違ありません。

「山奧の祕湯」とかぶるところが多い。慥に祕湯趣味もあるのですが、決定的な違ひは、温泉がなくても構はない、といふ點です。第一、日原に温泉はありません。錢湯すらありません。巨大な山塊が目前に迫り、通ひやすい道はその聚落で跡絶え、後は杣道、獸道が續くだけ。しかしその山塊のあなたには、別の國が隱れてゐる。そんな聚落に惹かれるのです。

そこに偶々温泉が湧いてゐる。素晴らしい。何と電車の終點がある。最高です。實に便利だ。しかし何よりもまづ、その聚落がある文化圈の隅つこであること。その世界の縁であること。目の前に世界を限る嶂屏が聳えてゐること。その向かうに別天地があるといふ豫感を抱かせてくれること。これが終點聚落(假にかう名附けます)の滿たすべき要件なのです。

終點聚落愛好家を名乘る御仁がいなのであれば、自分がその變人第一號になつてしまへ。終點聚落同好會がないのであれば、自分がその發頭人になつてしまへ。終點聚落にまつはるサイトがないのであれば、自分でそれを作つてしまへ。と無謀な妄想を抱いた擧げ句、ここに不佞、元夏迪は、終點聚落愛好家を宣言し、同志を募り、關聯情報の提供を廣く呼びかけるものであります。

平成十五年三月三十一日一筆箋
平成十八年六月十三日修訂上網
caelius@csc.jp

夕霞堂文集/夕霞堂寫眞帖
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