宿縁

夕霞堂隱士元夏迪

弓のが亡くなり、その靈前に詣でた時、香奠の御禮にと未亡人から渡されたクオカードなるものゝ使ひ道を考へ倦ねること一年半、近所のセブンイレブンでやうやく道路地圖を購入した。

これなら師の温顏を日々想ひ出すことが出來る、未亡人宅に赴くためには、どの道を走ればよからうかと思ひ喜んで地圖帳を眺めてから旬日を經ることなく、未亡人の訃に接し、墓に詣でるべく繰つたのが、その地圖帳であつた。調べた結果、菩提寺が拙宅からほゞ一本道であつた事實もまた、符節を合はせたかの如くである。

思へば、中學で弓の手ほどきをしてくれた人が、偶然、師の教へを受けてゐた。出會ふべくして出會ひ、別れるべくして別れたのであらうか。弓を引き絞つた状態を「會」といふ。心身相整ひ、均衡が取れ、雨露の葉から滴るが如く、箭が離れるのを待つ。師から、そしてやはり高段位にあつた未亡人から承けた射法の基本そのまゝにであつたことに呆然としつつ、墓に詣でた。

墓石は平生と變はりなく佇んでゐた。云ひやうのない感慨に襲はれた。平生と唯一異なることゝ云へば、前に掃苔して所在も熟知した墓石の前を何度も通りながら、暫くその存在に氣づかなかつたことである。

平成十九年七月三十一日一筆箋
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夕霞堂文集/夕霞堂寫眞帖
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