昭和後期の一齣

夕霞堂隱士元夏迪

口が臭い」に小學生じみたものを感じたから、といふ譯でもないが、先日來腦裡を去らない小學生時代の思ひ出を。

キューカイウラニシマンルイツーストライクスリーボールフルカウントゴッコである。

漢字混じりにで書けば「九囘裏二死滿壘ツーストライク、スリーボール、フルカウント」。「フルカウント」は「ルカウント」のやうに、「ふ」を高く發音する。

少年野球で四番エースを務め、中學校の野球部であまり活躍せず、その後どうなつたか全然判らない近所のM君のお氣に入りの「ごつこ」だつた。

普通の護謨鞠野球ではない。いや、投げた球を打ち返す點では野球と同じなのだけれども、腦内球場滿座の注目の中、劇的な状況に身を置いたつもりの同君の投球を打たされるのが味噌なのである。

だから、こつちは全く以て面白くない。彼が一人で痺れてゐるだけである。それを何度も繰り返させられる。野球なんか好きでもないこつちはウンザリしてくる。そんなことにはお構ひなしに、彼は口で實況放送の物まねをして、解説をして、應援團の音曲を再現して、振りかぶつて「放つて」ゐた。

──おいそんな莫迦げた事は止めてさ、「ろくむし」か「ケー泥」しようや、アホらしい。

そのやうな建設的な提言をしようものなら、神聖で敬虔なマウンドを汚したとばかりに叱られたものだつた。

小學校同級生の一部に見られた「學校でうんこしない同盟」と同じくらゐの大きな謎だつた。あれはなんだつたの、と訊きたい今となつては、同盟メンバやM君と聯絡を取る由もない。どうしてゐるのかな。

[關聯項目]

平成二十四年十一月一日木曜一筆箋
平成二十八年二月二十日土曜修訂上網
caelius@csc.jp

夕霞堂文集/夕霞堂寫眞帖
inserted by FC2 system