冬晴れの橋の上

夕霞堂隱士元夏迪

十八日日曜、久振りに上郷、舊友と名曲喫茶「麥」で茶を啜りつゝ宗次郎の音樂を聞く。新しいアルバイトの訛りは、矢張り朝鮮系であらうか。

晝には御茶ノ水に出る。橋の上に二十代前半と覺しき婦人がゐる。襁褓にくるんで抱くのは男兒であらうか。頬にピリッとくる寒風の中で陽に浴びて、橋の欄干に凭れてゐる。

母は嬉しさうに兒に壑景を見せてゐる。丸の内線の走る橋、總武線に中央線の驛、大名普請の神田川。兒はこの日に見た景色を覺えてはをらぬであらうが、母はこの日の御茶ノ水を終生忘れぬことだらう。

平成十九年十一月二十日一筆箋
同日修訂上網
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夕霞堂文集/夕霞堂寫眞帖
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