週末の理不盡

夕霞堂隱士元夏迪

土曜の健康診斷で採尿に苦勞した。緩みがちな年恰好になつてゐながら、肝腎な時には締まり屋なのだから、理不盡である。身長體重血壓はあつといふ間に終はり、醫師の診察と採血、序でに頼み込んだインフルエンザの豫防接種も直だ。

醫師の診察前にするべき採尿を後廻しにして、待合室に坐ること實に二時間半。持參した森谷公俊『アレクサンドロスとオリュンピアス』は讀み終へてしまふし、携帶端末で讀む漱石『草枕』、キケローde inventioneも目がしよぼしよぼしてくるし、愈々困つた。

「あのう、檢體の業者が來てゐますんで」

受附看護師が困つたやうな顏附きでさう云つて、尿意も絲瓜もない小父さんに奮起を促した。いとも簡單に規定量を採取できたから理不盡である。

日曜、クリーニングに出した背廣を囘收する。店先で「はロウヰンですから、はロウヰンですから」と、「は」にアクセントを置く初老の刀自たちが南瓜を刷つた小袋を呉れた時にも、なぜ「はロウヰン」なのか、何故日本の武藏野の片隅のクリーニング店の店先でハロウヰンなのか、なぜせがみもしない小父さんに小袋を呉れるのか、皆目判らず、これまた理不盡であらうかと苦笑ひ。

その脚で隣のスーパーマーケットに行くと、比目魚のさくを入れた發砲スチロウルに一圓の値札が貼つてある。どの比目魚も一圓である。管理番號が一なのではない。これも理不盡とて、魚を捌く若い店員に「みな一圓ですけど」とさくを示す。店員は青い顏をして飛んでくる。やはり理不盡に驚いたのだらう。

平成二十四年十月二十九日月曜一筆箋
平成二十五年九月八日日曜修訂上網
caelius@csc.jp

夕霞堂文集/夕霞堂寫眞帖
inserted by FC2 system