狂躁の渦中で

夕霞堂隱士元夏迪

地元檢定(「御當地檢定」と呼ばれてゐる)なるものが全國で百五十もあるといふから驚く。中には地域の浮沈を觀光にかけて、この檢定ブームに乘るところもあるらしい。危ない。

過日、世界遺産に認定された紀州の神社の前。地元の人と世間話。土地の物産を販賣する店である。店番は住民の輪番だ。世界遺産になつてから、下手をすると一日に觀光バスが數十臺も來ることがあるさうだ。そんなに來られても、これで食つてゐる譯ぢやなし、元々賣るものゝ量なんて高が知れてゐる、大體、狹い山道がバスで大澁滯で、車輌交替もまゝならず、普通の參拜客が來にくゝなつて困つてゐると云ふ。

「世界遺産のせゐだらうけど、二、三年もすれば、また元の靜かな郷に戻りますよ。それまでは我慢、我慢」。

正常な感覺に安堵する。觀光で十分に食つていける人口規模(過疎)でありながら、地元の平凡な農業を大切にしたいと願ふ人々である。

平成二十年正月二十七日一筆箋
同日修訂上網
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夕霞堂文集/夕霞堂寫眞帖
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