イタリヤ風

夕霞堂隱士元夏迪

イタリヤの書店に頼んだ書籍がまた(゛)屆かない。

先方に打電して照會する。間髮を入れずに返電が屆く。書店側も色を失つてゐる。「Poste italianeに調査を依頼しました」。

一日平均郵遞可能距離が數百メートルといふ汚名を誇るポステ・イタリヤーネの調査結果はまだ出ない。出てゐるのかも知れないが、まだその報に接しない。

別の書店からさる史家の全集を購つたことがある。かなりの嵩で、劍橋の弊屋に置くのを躊躇ひ、本朝の實家に配送方を依頼する。數箇月經つてもこれが屆かない。

書店に照會すると、擔當者は虚を衝かれたといふ風で、搬送中に紛失したのかも知れないし、我が國からお國(日本)に物を送るにも、不慣れな者がゐて間違ひをしなかつたとも限らない、新規にひと揃ひお國か劍橋に御送りしたい、後で元の荷がお國に着いても、送り返して戴くに及ばない、との懇篤な申し出である。

メイルで交信をするにも、退勤後の自宅から、深夜にすぐ返信を寄越す。こちらが夜更かしをしてゐるだけなのに、さらに夜更けのフヰレンツヱで返事を書いてゐる。「いや、私も今日は夜更かしをしてゐますものですから」。返事は急がないとこちらが書き送つたメイルに對する挨拶だ。郵便局で働くのもイタリヤ人なら、かうしたメイルを書いて寄越すのもイタリヤ人である。

新規に全集を發送する段取りをするうちに、日本宛の荷が書店に舞ひ戻つたさうである。その荷を當地の假寓に轉送して貰ひ、三日ほどで落手した。

平成十六年十二月十四日一筆箋
平成十七年九月十九日修訂上網
caelius@csc.jp

夕霞堂文集/夕霞堂寫眞帖
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