雨の色

夕霞堂隱士元夏迪

武州在に篠突く雨が降つてゐる。

去年の今日は晴れ、御衣黄が滿開を迎へてゐた。今年はなほ勢を保つ染井吉野が小學校の正門脇に竝ぶ。本通とは名ばかりの、新田開發の古を傳へる小路を覆ふ。水嵩を増した用水の流れに懸かる。幼穉園前の木立を賑はす。御衣黄の蕾は固い。

白に若紫の芝櫻、數年來、俄に伸してきたムスカリの璢璃紺、紫を冠する割にはに程遠く、青味が勝つてゐるけれども、菫色でもない紫花菜、樣々な色目の花瓣に、條入りの株まで立ち交る鬱金香が、時ならぬ冷たい雨に打たれてゐる。昏い天地が愈々昏む。漸く夏らしい色合で足元を照らし始めた罌粟[けし]の紅緋が、往路にはその黄味を喪い、殆ど葡萄色[えびいろ]に見えたのもこの雨か。

用務を濟ませた復路、また罌粟の羣落に過[よ]ぎる。見慣れた紅緋の花瓣が雨露に濡れて、溟く耀くばかりであつた。

平成二十九年四月十一日火曜一筆箋
同年六月十七日土曜修訂上網
caelius@csc.jp

夕霞堂文集/夕霞堂寫眞帖
inserted by FC2 system