午前七時のコンビニエンスストアに、向かひの團地から老人がやつてくる。
入り口脇の新聞立てを不審さうにまさぐる媼がゐる。杖を突き、ステテコ姿の翁が合流する。交叉點を渡つてこちらに來る姿は、小さく、薄い。やはり新聞立てをごそごそ掻き廻す。
「スポニチですか」
媼が訊く。存外はきはきした口調に翁は頷く。
「スポニチは部數が少ないから、なくなつてゐることが多いのよね。團地の中のアレ(別の店)ならあるかも知れないわね」
媼の披瀝する蘊蓄に、翁はさうか、さうだねと相槌を打つて店を出る。
媼はレジスタアで支拂ひを濟ませるまで、この店は時々スポニチを切らせるのよね、と寸分違はぬ措辭で繰り返す。レジスタアでは目の前の虚空に向かつて話し、雜誌スタンドの前の硝子窓には、親しみを込めて語りかける。